データサイエンスのための統計学入門:基本概念から学ぶデータの見方
データサイエンスの学習を進める上で、統計学は欠かせない基礎知識の一つです。データ分析や機械学習の多くは、統計学的な考え方に基づいています。しかし、統計学と聞くと数式が多く、難解に感じる方もいるかもしれません。このセクションでは、データサイエンス学習の第一歩として、統計学の基本的な概念と、それがどのようにデータの理解に役立つのかを分かりやすく解説します。
データサイエンスにおける統計学の重要性
データサイエンスは、大量のデータから有益な情報やパターンを発見し、意思決定に役立てる学問分野です。このプロセスにおいて、データが語る物語を正確に理解するためには、統計学の知識が不可欠です。統計学を用いることで、単なる数字の羅列から、傾向、ばらつき、そして将来の予測といった深い洞察を引き出すことが可能になります。
例えば、ある商品の売上データがあったとします。ただ売上高を見るだけでなく、平均的な売上はいくらか、売上に大きなばらつきがあるか、特定期間に売上が伸びる傾向があるかなどを統計学的に分析することで、次にとるべき戦略が見えてきます。
統計学の二つの柱:記述統計と推測統計
統計学は大きく分けて、「記述統計学」と「推測統計学」の二つの領域に分類されます。
記述統計学
記述統計学は、手元にあるデータそのものの特徴を要約し、分かりやすく表現するための手法です。例えば、クラスの生徒の身長を測定したとき、そのデータの平均値、中央値、最も多い身長(最頻値)を計算したり、身長のばらつき(分散や標準偏差)を調べたりすることがこれにあたります。
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代表値:
- 平均値: 全ての値を合計し、データの個数で割った値です。データ全体の中心を示す最も一般的な指標です。
- 中央値: データを小さい順に並べたとき、ちょうど真ん中に位置する値です。極端に大きい値や小さい値(外れ値)の影響を受けにくいという特徴があります。
- 最頻値: データの中で最も頻繁に出現する値です。
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散布度:
- 範囲: データの最大値から最小値を引いた値で、データの広がりを示します。
- 分散: 各データが平均値からどれくらい離れているかを示す指標です。データのばらつきが大きいほど、分散の値も大きくなります。
- 標準偏差: 分散の正の平方根を取った値です。分散と同じくばらつきを示しますが、元のデータの単位と同じになるため、より直感的に理解しやすい指標です。
これらの指標を用いることで、データを数値的にコンパクトにまとめ、その特徴を把握することができます。
推測統計学
推測統計学は、手元にある限られたデータ(標本)から、そのデータが抽出された全体(母集団)の性質を推測するための手法です。例えば、全国の有権者全員の意見を聞くことは現実的ではありませんが、無作為に選ばれた一部の有権者(標本)の意見を調査することで、全国全体の傾向(母集団の傾向)を推測しようとするのが推測統計学の考え方です。
この推測を行う際には、確率の考え方が用いられます。標本から得られた結果が、どの程度の確からしさで母集団にも当てはまるのかを評価することが推測統計学の主な目的です。
データの分布を理解する
データの特性を理解する上で、データの「分布」を知ることは非常に重要です。分布とは、データがどのような値を取り、それぞれの値がどれくらいの頻度で出現するかを示すものです。
- ヒストグラム: データの分布を視覚的に表現するグラフの一つです。データをいくつかの区間に分け、各区間に含まれるデータの個数を棒グラフで示します。これにより、データがどの値に集中しているか、あるいはどのように散らばっているかを一目で把握できます。
- 正規分布: 統計学で最もよく登場する分布の一つに「正規分布」があります。平均値を中心に左右対称の釣鐘型(ベルカーブ)の形をしており、多くの自然現象や社会現象のデータがこの分布に従うことが知られています。正規分布の理解は、多くの統計的分析手法の基礎となります。
学習のポイントと次の一歩
データサイエンスのための統計学学習の最初のステップとして、まずは記述統計学の各指標(平均、中央値、最頻値、分散、標準偏差)が何を意味するのかをしっかりと理解することが重要です。そして、実際に簡単なデータを使ってこれらの値を計算してみることで、より深く概念を定着させることができます。
データの分布をヒストグラムで視覚化し、それがどのような形をしているかを観察する習慣を身につけることも、データの見方を養う上で非常に役立ちます。
この基本概念の理解を深めることが、今後のデータサイエンス学習、特に機械学習モデルの選択や結果の解釈において、より深い洞察を得るための確固たる土台となります。